貯水槽は水を貯めておく設備で、大きめの建物のほとんどに設置されています。密閉されているため、貯水槽内の水が汚染されることはないように思えますが、カビや雑菌が発生する可能性がないわけではありません。衛生上の観点から定期的な貯水槽の清掃・点検が必要であるのは言うまでもなく、水道法や条例でも適切な管理が義務付けられています。今回は貯水槽の基礎知識を説明した上で、貯水槽の清掃に関連するさまざまな情報を解説します。
貯水槽とは
貯水槽は、文字通り「水を貯める水槽」です。マンションや公営団地、商業ビル、病院、学校のような多くの人が居住したり利用したりする建物・施設に設置されています。このような場所で多くの人が一度に水を使うと、配水管からの供給では間に合わない可能性があります。水が大量に必要になったときでも供給不足にならないよう、あらかじめ大量の水を確保しておく設備が貯水槽です。貯水槽は災害時に断水が起こっても一時的なライフラインとして機能します。また、飲料用だけでなく工業用としても貯水槽が活用されています。
貯水槽の主な種類は「受水槽」「高置水槽」「貯湯槽」の3つです。
・受水槽
多くの人が利用するビルやマンションなどに設置された、水道水(水道局から水道管を通して供給される水)を貯めておく水槽です。基本的には1階地上部分または地下にあります。受水槽のおかげで、建物内で水の使用量が大きくなったときにも対応可能です。
・高置水槽(高架水槽)
高置水槽とは、建物の屋上など高い場所に設置されている貯水槽のことです。高層階に水を供給する場合、そのまま受水槽から送ろうとしても水圧が足りません。そのため、ポンプを使って受水槽から水を送り、高置水槽に貯めておきます。水が自然に流れる力を利用して高置水槽から供給するほうが、受水槽で水圧を上げて高層階へ送るよりも効率的です。
・貯湯槽
お湯を大量に使用する建物・施設の給湯用設備です。空調のために加熱した水を貯めておく用途でも使われます。熱交換器を内蔵した貯湯槽は、圧力容器関連の法律等が適用される場合があります。
貯水槽の清掃に関する法律
水道水の管理責任は水道局にありますが、貯水槽に入っている水の管理責任を負うのは建物管理者です。その管理責任の一環として、貯水槽の清掃が法的に義務付けられています。建物管理者やビルのオーナーは法律の定めに基づき、毎年1回は貯水槽の清掃をおこなわなければなりません。
貯水槽の管理や清掃、検査に関する法律・条文の引用は以下のとおりです。
・水道法
(第34条の2)簡易専用水道の設置者は、厚生労働省令で定める基準に従い、その水道を管理しなければならない。
(第34条の2の2)簡易専用水道の設置者は、当該簡易専用水道の管理について、厚生労働省令の定めるところにより、定期に、地方公共団体の機関又は厚生労働大臣の登録を受けた者の検査を受けなければならない。
※簡易専用水道:受水槽の有効容量が10㎥を超える給水設備(貯水槽)のこと。10㎥以下は小規模貯水槽という。
・水道法施行規則
(第55条の1)水槽の掃除を毎年一回以上定期に行うこと。
(第55条の2)水槽の検査等有害物、汚水等によつて水が汚染されるのを防止するために必要な措置を講ずること。
(第55条の3)給水栓における水の色、濁り、臭い、味その他の状態により供給する水に異常を認めたときは、水質基準に関する省令の表の上欄に掲げる事項のうち必要なものについて検査を行うこと。
(第55条の4)供給する水が人の健康を害するおそれがあることを知つたときは、直ちに給水を停止し、かつ、その水を使用することが危険である旨を関係者に周知させる措置を講ずること。
(第56条の1)法第三十四条の二第二項の規定による検査は、毎年一回以上定期に行うものとする。
(第56条の2)検査の方法その他必要な事項については、厚生労働大臣が定めるところによるものとする。
・建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管法)施行規則
(第4条3号)要約:水道法の定める水質検査をおこなうこと。水質基準に関する省令の15項目については6カ月以内ごとに定期的に1回、消毒副生物については毎年、測定期間中に1回おこなうこと。
(第4条7号)遊離残留塩素の検査及び貯水槽の清掃を、それぞれ七日以内、一年以内ごとに一回、定期に、行うこと。
押さえておくべき重要なポイントは以下の3つです。
・水槽の清掃は最低でも毎年1回以上、定期的におこなう
・水槽の汚染を防止する措置をとり、異常があれば検査をする ・省令に定められた水質検査を定期的におこなう |
貯水槽の清掃を怠った場合
長期にわたって貯水槽の清掃がおこなわれていない場合、内部に不純物や汚れがたまって水質が悪化するケースがあります。放置すれば水質悪化による健康被害が発生するかもしれません。仮に健康被害が発生しなかったとしても、清掃を怠ったことで罰則を受ける可能性もあります。
健康被害が発生するリスク
貯水槽の機能に問題が起こらなければ、水質が悪化することはめったにありません。しかし、貯水槽の金属部品がサビたり、劣化がおこったりすることを完全に防ぐことはできないのです。少しでもすき間が生じれば異物や細菌などが入り込み、水槽内が汚れていきます。定期的な清掃をおこなって汚れを除去し、貯水槽に異常がないか点検することが必要です。
清掃を怠っていると貯水槽の異常にも気づかず、建物の利用者に不衛生な水を供給し続けることになります。見た目にはきれいな水でも、水質が悪化していることは十分にありえます。体調不良やアレルギーといった健康被害が発生すれば、管理責任を問われて訴訟問題にも発展しかねません。
罰則を受けるリスク
建物管理者には貯水槽の水質検査が義務付けられ、違反すれば罰則があります。罰則を定めているのは水道法です。
・水道法
(第54条)次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
(第54条8号)第三十四条の二第二項の規定に違反した者
法に定められたとおりに貯水槽の水質検査をおこなわなければ、100万円以下の罰金が課せられます。34条の2第2項の規定とは、前述したとおり「定期に、地方公共団体の機関又は厚生労働大臣の登録を受けた者の検査を受けなければならない」というものです。
清掃をしていない汚れた状態で貯水槽の検査を受ける管理者はまずいないでしょう。検査に問題があれば行政指導を受けることになるからです。したがって、清掃を怠っている建物管理者は法定検査も受けないという事態になりやすく、その違反が発覚すると罰則の適用対象になってしまいます。
清掃の頻度
有効容量が10㎥超の簡易専用水道か、それ以下の小規模貯水槽かで規定している法律・条例が異なります。簡易専用水道の場合、水道法施行規則第55条の1で「清掃頻度は毎年1回以上、定期的に行うこと」と記述されています。小規模貯水槽の清掃頻度を規定しているのは、各自治体(都道府県または保健所設置市)の条例などです。基本的には「1年に1回以上定期的に」清掃をするよう定められています。
貯水槽清掃の主な流れ
担当する清掃業者によって細かい違いはありますが、おおむね次のような手順で貯水槽の清掃を進めます。
1)告知
当該建物の居住者・利用者へ貯水槽の清掃があることを告知します。事前に断水の時間帯などを伝えておかないとトラブルになります。余裕を持って数週間前から告知するのが一般的です。
2)清掃準備と清掃前の確認
高圧洗浄車や高圧洗浄機を準備し、清掃器具類の洗浄・消毒をします。清掃前の水質検査をおこなったり清掃場所の作業安全性を確認したりします。
3)断水と排水
水道の弁を締めて断水し、貯水槽の水抜き作業を開始します。水抜きで使われる方法は、水抜弁での自然排水やポンプによる排水です。排水には時間がかかるため、清掃準備と並行して作業する場合もあります。
4)貯水槽の清掃、槽内器具の点検
排水完了後に作業員が貯水槽内に入り、清掃前の状態をデジタルカメラなどで撮影します。その後、清掃作業に取り掛かります。汚れ具合に応じて専用の洗剤や高圧洗浄機を用いるなど、貯水槽の清掃には知識と経験が必要です。清掃が終わったら槽内の排水と拭き取りをして、清掃後の状態をまた撮影します。
5)貯水槽の消毒作業
水張りをする前に貯水槽を塩素で消毒します。槽内の全面に次亜塩素酸ナトリウム溶液を塗って放置後、水洗いをする作業を2~3回繰り返します。
6)貯水槽の水張り作業
消毒後の水抜きをしてから30分程度放置したら、貯水槽への給水を始めます。貯水槽に水張りが終われば清掃作業はほぼ完了です。
7)断水の復旧
水道の弁を戻して断水を復旧させます。断水時間は清掃作業にかかる時間と同程度です。貯水槽のサイズにもよりますが、だいたい2~4時間で復旧します。
8)水質検査
清掃後の水質検査では残留塩素を測定します。ただし、その場でできるのは簡易的なものであるため、厳密な水質検査は専門機関に依頼することになります。
9)作業終了・報告書の確認
当日の清掃作業は以上です。後日、水質検査の結果と清掃作業の報告書が送付されます。水質検査の結果によっては、保健所への連絡や貯水槽の修理・点検をしなければなりません。